小説版退付喪霊 音音 第4話     

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  十四を過ぎたくらいのおなごの言葉に、音
羽は何も言い返す事ができなかったんだよ。
 まったくもってその通りだったからねぇ。
 街に出る事は勇気の要る事ではあったけれ
ど、華やかな街に出るのは音羽にとっては楽
しみでもあったのさ。
 その証拠に煌びやかな赤い花模様の振袖に
文庫結いの帯の色は金色。
 もちろん自分で着付けもできず、女中さん
に着させてもらったものだった。 
 家業の仕事の内容についても何も分からな
い。
 その上、世情についてももっぱら疎かった
んだ。箱入り娘だから仕方がないんだけどね
ぇ。 
 何も言い返せず音羽は俯きその場から逃げ
たんだ。 
 兄たちを連れ帰る目的も達成できず、音羽
は沈んだ顔で何もできない自分に悔しさを覚
えながら吉國の家に戻ったんだ。 
 家に戻ると、遠目でも分かるほど家の周り
に農民たちが集まっていて音羽はびっくりし
たんだよ。 
 農民たちは吉國太郎左衛門を囲み、何やら
文句を言っているようだ。怒号が飛び交って
いるその中に音羽は割り込んだのさ。 
「父上をいじめないでください!!」 
 音羽は精一杯の勇気を振り絞って父と農民
の間に割り込み、大声で叫んだ。 
 音羽からしたら病み上がりのお父さんがい
じめられている様に見えてしまったんだよ。
 音羽の乱入に一瞬だけ押し黙った村人たち
だったが一人の少年が口火を切ったのだよ。
「いじめられているのはこっちの方だ!俺た
ちが必死で働いてもあんたら地主や武士が高
い年貢で奪い取りやがる!その高そうな着物
はなんだ!俺の妹は着物一枚持つのが精精一
杯だ。隣の娘は売られたよ!!!」 
 江戸時代の人々のほとんどが農民でほとん
どの農民が貧しい暮らしをしていたんだよ。
 そんな長者に産まれても、奢る事なく汗水
垂らして働いていた吉國家の三兄弟は農民た
ちからも厚く支持されていたんだよ。 
 音羽は農民たちの声を聞いてショックをう
けてしまったんだ。 
 太郎左衛門はこの後更に弱って床に伏せっ
てしまったんだよ。 
 音羽は暫くはウジウジと悩んでいた。 
 兄たちも家にはもう居らず、頼れるのはも
はや自分だけであると悟ったのは良いのだけ
れど、打開策が浮かばないから困りに困った
んだねぇ。 
 もうやけになって近くにある神社にお参り
に行ったんだよ。 
 お賽銭を入れて鐘を鳴らし、大分長い時間
手を合わせていた音羽に声を掛ける者がいた
よ。 
「もしもし、そこのあなた」 
音羽は熱心に祈っているので声が耳まで届か
ない。 
「もしもし!」 
 二度目の呼び掛けで気づいた音羽にその者
は語りかけたよ。 
「何かお困りですか?」 
 音羽はオドオドと頷く。目の前の相手はニ
コニコと微笑みながら言葉を続けたよ。 
「何かお困りなら私が力になりますよ。何や
らやっかいな妖怪に魅入られてしまったよう
ですねぇ。妖気からしてもしや・・・百目鬼
かもしれない・・・詳しくお話を聞かせてく
ださい」 
 それが二人の運命的な出会いになるのだけ
どそれは次のお話で・・・・。 
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監修 赤い羽根のCB    
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