小説版退付喪霊 音音 第19話     

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 「けどね、父さんや母さんを始めとした農家
の人達も皆、家族みたいで……知ってる?。
小さい頃からみんな優しくしてくれてたんだ
よ?。……子供の頃だけじゃない、今だって
優しくしてくれる」 

 音羽は話をしてる最中でも自分とうり二つ
の姿をした百目鬼から目を離さない。 
 まるでその姿は、自分から逃げるのを止め
た様な姿だったのさ。 

「だからこそ、そういう中で育ってきたから
今の私があるの。農家なんて潰れればいいっ
て思ったりもするけど、やっぱり私の家、私
のいられる場所。……潰すなんてできないよ。
もちろん、あなたも……」 

 百目鬼にそう言って、手を差し出す。百目
鬼は自分の不満から出た姿・・言わば、彼等
もまたもう一人の自分。 
 しかし皆、彼等を否定した結果……暴走し
襲い掛かって来たんだね。 

「……(百目鬼も犠牲者なのかも知れない)」

 そう思いながらコイは百目鬼に手を差し延
べる音羽を見ていた。 

「前は今まで兄たちが手を差し延べてくれた
けど……今度は私が連れて行ってあげる。そ
うじゃなきゃ、いつまでも逃げてるだけでお
母さんからも農家からも向き合う事なんて出
来ない……」 

 音羽がそう言った瞬間、光が溢れ、百目鬼
が花びらを撒き散らせながら頭に華の飾りを
つけ、周りには華の様な衣を纏い本来の百目
鬼の姿に戻ったんだ。 

「今度は大丈夫だから、一緒に行こう……百
目鬼」 

 そう言って音羽と百目鬼は手を取り合った
よ。 
 そして薄明りの中、桜の花びらは二人を守
る様にずっと舞っていた。 
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監修 赤い羽根のCB    
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