小説版退付喪霊 音音 第1話     

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 舞台になるここは栃木県真岡市。「スーパ
ーマーケットが500mに一つあるという日本
で一番スーパーマーケットがある市でもある
んだ。とても生活しやすい街である」と担任
の先生が今日のホームルームで話していたの
を音音は思い出していた。

 今日は2月3日。暦の上では早春にあたるこ
の時期らしく、冬の頃とは違って暖かみのあ
る夕陽が五行川の河川敷にある、桜並木の蕾
を照らしている。音音はこの河川敷を学校へ
の登下校としてほぼ毎日利用しており、季節
によって徐々に変わっていくこの河川敷がお
気に入りでもあった。

 時刻は夕方四時を回っており、夕陽に照ら
された五行川はオレンジ色に染まり、先ほど
の暖かさとは違い、まだ寒さを残す風が忍び
寄る夜の空気と一緒に音音の頬を掠めて通り
過ぎて行った。
 
 今日、おばあちゃんから「大切な話がある
から早く帰って来るように」と言われていた
音音は、友達の誘いを断り、いつも寄る駄菓
子屋にも寄らず足早に帰路へとついていたの
だ。そう言えば明日は立志式だった、と音音
は思い出している。この時期、この地域の中
学校では中学2年生になると学校行事として
「立志式」を行なう。これは昔の成人式にあ
たる元服を迎える時期が現在の中学生の時期
にあたるため、その風習を学ぶ意味合いも兼
ねている。

 いつもより早足で自分の家の大きな大谷石
の門を潜り玄関を開けると、待ちかねたよう
に祖母が立っていた。

 「お帰り。さっそくだけど音音に話さなけ
ればいけない【大事な話】があるんだよ。長
くなるから私の部屋へおいで」どこか深刻な
表情をした祖母がそこには居た。皺の深い目
元からのぞく祖母の目はいつになく真剣その
もので、こんなおばあちゃんのはじめて見た!
っと音音は内心驚いていたのだった。

 祖母と言えばいつもニコニコしていて音音
や響少にもいつも優しく接してくれている。
たまに「私にも若い頃があったのよ〜」と笑
いながら昔話をしてくれるのだが、だいたい
が自分がいかにモテたか、とか可愛かったか
とか祖父もベタ惚れだった、などのちょっと
した自慢話をニヤケながら話すので音音は内
心ヤレヤレと思いつつも面白く聞いていたの
だ。

 確かに祖母の目鼻立ちは昔は美人だったん
だろうな、という名残があり話に説得力があ
ったのも確かであった。

 祖母の部屋に早くと促され、音音は学校用
のカバンを持ったまま祖母の部屋に入った。
コタツに足を入れながら座り座った直ぐ横に
カバンを置く。机の上にある蜜柑を手に取っ
た。祖母はさっと急須からお茶を注ぐと、音
音の前に差し出す。

 「話って何なの?」
蜜柑を口に運びながら戸惑ったように音音が
口を開いた。音音とコタツを挟んだ正面に座
り、真面目な表情で祖母は言葉を返す。

 「響少が帰ってくる前に話さなければね・
・・」お茶を自分の湯呑みに注ぎ、一口含む。
はぁーっとため息を一つ吐くと、祖母はゆっ
くりと口を開いた。

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監修 赤い羽根のCB    
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